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Chap.6-10 The Dreadnought Leviathan-戦艦リヴァイアサン(2)- [Chapter6 再会]

 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!
 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!

「ったくしつこいな!」
 照明が真っ赤に点滅する中で、ヴァンは迫る帝国兵の剣をかいくぐって相手の胸元に飛び込んだ。

狭い通路でもつれるように取っ組み合って、壁を背にして相手を押さえつける。
「がぁ!」
 苦し紛れに相手が振り回すシールドが強かにヴァンの横面を張って、目の前が飴のように歪む。その隙に股の下から兵士がスルリと逃げ出す。
「あ、そっちに行くな!」

 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!

「行くなって言ってるだろ!」
「黙れ!・・・・ぐわっ!」
 くずおれる甲冑を探知装置の赤い光が斑に照らす。乱暴にヴァンを引き起こしながらウォースラが怒鳴る。
「少しは警報を鳴らさないように気を使え!」
「しょうがないだろ!こっちが気にしても向こうはお構いなしなんだからさ!・・・・って、また行き止まりかよ!」
 ヴァンは閉じた壁を一発殴って踵を返した。そして小馬鹿にするように目の前に現れた探知装置の赤いアミをヤケになって大股で踏み越した。

 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!

「畜生!なんて仕掛けだよ!」
 思わず罵声を浴びせたくもなるというものだ。いくら探知装置の赤い光に注意しても、敵兵に見つかれば相手はお構いなしで突っ込んでくる。それに、一度人が通過して初めて探知装置が作動する場所が幾つもあるのだ。通路は入り組んで見通しが利かないうえに、あちこちが行き止まりだ。だが、引き返えそうと振り向けば、さっきまで無かったはずの通路を赤いアミががっちり塞いでいるのだった。こうなると警報を鳴らさずには退くことも進むことも出来ない。
「いい加減に方向音痴は治したら?坊や。」
 けたたましい警報の下で、嫌になるくらい冷静にフランが言った。
「こんな迷路、覚えられるわけ無いだろ!そもそも最初に想定してたコースと全然違うじゃないか!」
「そうそう思い通りには行かないもんだ。」
 銃声と警報の合間から、嫌になるくらい気楽そうなバルフレアの声が飛んできた。
「将軍様の前で大見得を切ったんだろ?根を上げるには早いぜ。」
「分かってるよ!来る奴は全部やっつければいいんだろ!」
 ヴァンは膨れっ面で短剣を片手に窓のない通路を走った。

 最初に浸入した中層西ブロックを抜け、中央のキャットウォークのような狭い通路の先の大型コンテナ倉庫を抜ければ、目指す下層ブロックはすぐのはずだった。最短通路は戦闘艇用ドックにも繋がるせいか兵士の数が多く、ヴァン達はやむなく東ブロックへと遠回りしたのだった。
 だが、東ブロックの通路は西ブロックとは比べものにならない程の入り組んでいて、まるで鼠の巣穴のように入り組んだ通路を、それこそコマネズミのように走り回ることになってしまった。
「本当に一度もアミに触らずに通りぬけられるコースがあるのか?!」(あるにはあるがな。)
「今更それが分かったところでどうする!」(トレジャー取りこぼすだけだぞ。)
 警報に張り合うような大声でウォースラが怒鳴り返した。もはや警報を鳴らすも鳴らさないも関係ない。
「この先にサブコントロールルームへの扉があるはずだ。そこから下層に降りられる。急げ!」

 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!
 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!

「扉・・・扉・・・」
 相変わらず狂ったように明滅する警報の下で、ヴァンは一番船首側の通路をバタバタと走った。
「サブコントロールルームの扉・・・あった!」
 ヴァンはチーズを見つけた鼠みたいに扉に飛びついた。だが、ヴァンが押しても引いても跳びはねても、扉は厳重にロックされていてびくともしない。
「どうした!?」
「ダメだ!開かないよ!」
「どこかにドアロックを解除する装置があるはずだ。慌てるな。」
 耳元でバッシュの落ち着いた声がした。ヴァンの背中に背を合わせて背後に迫る帝国兵をバッシュとウォースラが押し返す。脇を固めるフランとバルフレアは左右の通路から入ってる帝国兵へ矢弾の雨を降らせる。

 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!

 警報と剣戟と銃声に軍用犬の咆吼が入り交じる。真っ赤な光が点滅する下で、通路に押し寄せる帝国兵を4人の大人が押し返すのに背を向けて、ヴァンは扉の周りをキョロキョロと見回した。
「解除装置って・・・えーっと・・・・これか!」
 扉の左手の壁に大きな解除スイッチらしきものがあって、すぐ脇に緑色に輝く縦型のバーが付いている。取っ手にしては位置も高さも不自然なところを見ると、これ全体が特殊な形状をしたスイッチだ。
「よぉし・・・・あ、あれ?!」
 ヴァンは指がひん曲がるほどスイッチを押したが、スイッチはまるで反応がない。
「何でだよ!?」
「どうした?!」
 歯噛みをするヴァンの後ろでバッシュの声がする。
「何をモタモタしているんだ?!」
 帝国兵のうめき声の合間でウォースラの苛立った声がする。
 急かすような銃声が続けざまに響く。
「畜生・・・!」
 焦ったヴァンはヤケになって柄で殴ろうと短剣を振り上げた。その時、ヴァンはやっと気がついた。スイッチの横に注意書きがある。

『CAUTION!!これは平常時用のスイッチです。緊急時には使用できません。』

 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!
 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!

「何だよそれ?!」
 ヴァンが素っ頓狂な悲鳴をあげたのと同時に、帝国兵の最後の1人がその足元に転がった。

 ビィ      ッ!!ビィ      ッ!!ビ・・・・・・

「よし、消えた!」
 警報の赤い光が消えるのと入れ替わりに、緑色のバーは赤く輝きながら滑らかに下に向かってスライドした。サブコントロールルームへの扉のロックが解除されたのだ。
 5人は開いたドアに吸い込まれるようにサブコントロールルームの中へと姿を消した。




「あ、また・・・・」
 どこかで警報が鳴り始めた。これで何度目だろう。パンネロは浮かしかけた腰をまた下ろして、また浮かした。
 だが、目の前のラーサーと女官は動ずる様子もない。それでも2人の硬い表情はパンネロを不安にさせるに充分だった。
「それでは殿下、私はこれで失礼いたします。」
 すらりと背の高い女官は右手を胸の前にすっと差し上げかけて、また下ろすと、長いドレスの裾をつまんで実に優雅なお辞儀をした。
「貴重な情報の提供を感謝します。」
 ラーサーは軽く頷いたが、その口調は喜びとはほど遠い重苦しさを持っていた。およそ少年らしく無い表情の皇子に向かって、仮面のような無表情の女官は衣擦れの音さえさせずに静かに部屋を出て行った。まるで影が滑っていくかのようだったが、パンネロにはその後ろ姿から軍靴の響きが聞こえるような気がした。
 警報はまだ鳴り続けている。ラーサーは既に消えたディスプレイの前に立って、暗い画面をまだじっと見ていた。
 その時、再びドアが開いて今度こそ本当の軍靴の音が無遠慮に鳴り響いた。金朱の甲冑のジャッジマスター・ギースは、唐突とも思える勢いで皇子の部屋へと入ってきた。
「ギース卿、何事です?」
 断りもなく入ってきた者への不快さから、ラーサーの言葉には刺があった。
 だがジャッジマスター・ギースは、それを警報が鳴っていることへの少年の不安と受け取った。
「ご安心ください、殿下。コンテナ積込みで些か不手際があったようです。警報はプログラムミスと思われますが、詳細は追ってご報告を。」
 ギースは努めて軽い口調で言った。パンネロにはラーサーが一瞬眉を潜めたのが分かったが、次の瞬間、少年は如何にも安心したように微笑んで見せた。
「・・・そうですか。ならば良いのですが。」
「殿下の御静謐を乱しまして、真に申し訳ございません。」
 幼い皇子にいやに丁寧な敬礼をすると、ジャッジマスターは入ってきた時のように忙しく部屋を出て行った
 紅の天秤を染め抜いた大マントがドアの向こうに消えると、ラーサーはパンネロの方へ振り返った。「パンネロさん    」
 少年は大人びた表情で微笑んだ。

「ラバナスタまでお送りするつもりでしたが、どうやら難しくなったようです。」



「うぁっ!・・・」
 暗がりで微かに唸る矢の音に気付く間もなく、胸板を射貫かれた兵士がキャビネットの間に横たわった。奥のサーバルームで左右の階段と扉の辺りを窺っていたバッシュとバルフレアが、大きなガラス越しにオーライの合図を返した。
「ふう・・・・」
 ヴァンは大きな息を吐くと、手にした短剣を腰に戻して、大きな椅子にストンと腰を降ろした。僅かな兵士を倒せば、無人となったサブコントロールルームは、ヴァン達にとってしばし静かな休息の場所へとに姿を変えた。
 ヴァンが見上げると、黒い天井にはポーションの瓶そっくりの蒼い光が蛍みたいに幾つも光っていた。壁にも細やかな青色の装飾が密やかに浮かんでいる。眠っているように薄暗いその部屋でも、巨大なコンソールテーブルが部屋を横断するように鎮座していて、所々に緑色のランプが小さな目のように光っている。それぞれの端末の前には角張った大きな椅子がずらりと並んでいる。
「ここなら一息付けそうだな。」
 ほっと大きな息を吐いて、5人はそれぞれにポーションを手に取った。暗がりでもぼんやり青く光るボトルは、どれもヴァンがここへ辿り着くまでに帝国兵の懐から掠め取ったものだ。連戦で消耗した体力と乏しくなったミストを回復させるには、しばし落ち着いた時間が必要だった。5人は思い思いにその場に腰を降ろし、敢えてゆっくりと青い水を喉に運んだ。
「警報が収まると向こうもしつこくは追ってこないんだな。」 (ゲームだからな。)
 ヴァンの声に傍らのバッシュが頷いた。
「ラーサーが乗船している手前、向こうも騒ぎを大きくしたくないのだろう。公安総局ですら殿下や私の存在を知る者はごく一部だ。」
「こっちだって好きで警報鳴らしてるわけじゃないのに。」(ゲームだからな。)
 ヴァンは青い瓶をくわえたまま頬を膨らませた。
「下層ブロックって、西ブロックから出た所でちょうど下に見えてた所だろ?・・・こんなに遠回りしなくても飛び降りれりゃ手っ取り早いのにな。」
「足首捻ったところを袋だたきにされたきゃ、そうしろよ。」
 そう言ってバルフレアはコンソールテーブルの一つへ1人歩いていった。夜みたいに暗いその部屋で、その端末だけが緑色のランプの光がやけに目立つ。
 ヴァンも立ち上がって後ろから覗き込むと、小さなディスプレイの付いたその端末の前に立ったまま、バルフレアが言った。
「探知装置の制御端末だ。上手くすればうるさい警報を止められるはずだ。」
「よせよ!勝手にいじったら・・・」
 ヴァンが止める間もなく、バルフレアは迷う様子もなく端末のキーの上で素早く指を動かした。ヴァンは爆発でもするかのように思わず目をつぶった。
 だが、てっきりまた警報が鳴るかと思いきや、その端末の画面には『制御キーを挿入してください。』という素っ気ないメッセージが表示されただけだった。
「制御キーが無いとダメか。厄介だな・・・・」
 口で言う割にはガッカリした様子もなく、バルフレアは白けたように椅子に腰を降ろすと再びポーションを口に運んだ。
 投げ出した足の下からグロセアエンジンの振動が微かに伝わってくる。隣のサーバルームから聞こえる密やかな駆動音は、闇夜に遙か遠くの砂嵐を聞いているかのようだ。5人は夜の水底の魚のように誰もが無言でじっとしていた。ずいぶん久しぶりの静かな時間だった。
 その静けさをバルフレアの声が破った。
「・・・なあ、バッシュ将軍。」
 影の中でバルフレアは言った。

    あんたは、王女がアマリアと名乗ってることをいつ知った?」

 ヴァンはハッとして顔を上げた。傍らでウォースラの甲冑がカシャリと鳴った。
 バッシュは己に背を向けたままの空賊の背中に言った。
「・・・鎌をかけているつもりか?」
 バッシュの言葉に、バルフレアはフフンと鼻で笑った。
「そっちの将軍閣下がお姫様を本当に隠しおおせていたのなら、落城前から鳥籠の中にいたアンタがどうやって彼女の身の振り方を知ったのかと思ってね。」
 その声はいつものように飄々としたものだったが、どこか抜き身のナイフを弄ぶような冷たく鋭い色を帯びていた。ヴァンは居心地悪くもぞもぞと体を動かした。
 ウォースラが拳を強く握りしめる音が聞こえた。
「ジャッジに漏れていたのだ。我々の行動が。」
「いや、そうではない。」
 バッシュはそう言うと、手にしていた青い瓶を傍らに置いた。
「確か1年ほど前だ。不意に低い音と共に独房が揺れて僅かに壁に亀裂が入った。隣の独房の男が隠し持っていた爆薬で爆破したものだった。とっておきの爆薬だったらしいが、あいにく爆破する方向を間違ったらしい。」
「・・・どこかで聞いたような話だな。」
「脱出が失敗に終わったと知ると、彼は崩れかけた壁越しに自分がラバナスタ解放軍の一員だと私に言った。そして当時の解放軍の状況を伝えてくれたのだ。アーシェ殿下がアマリアと名乗っていることも、解放軍同士が分裂状態にあることも。そして、1人の将軍の裏切りがダルマスカにどれ程の苦しみを与えているかも。・・・彼は、私を他の解放軍の一員だと思っていた。」
 バッシュの言葉は、低く静かに、そして重い余韻を残して流れた。
「彼は言った。万が一にも私が監獄を出られることがあったら、このことを伝えて欲しいと。そして総ての解放軍の団結を願う、と。」
 バッシュはそこで、大きく息を吐いた。
「・・・そこで看守の足音が近づいきて、それきり、彼の声が聞こえることはなかった。」
 ウォースラが呻くような深い息を吐いて、5人に沈黙が降りた。フランが向かい側のサーバルームへの階段を降りていった。その先に下層へ向かう戦闘艇用ドックへの扉がある。部屋を仕切る大きなガラスの向こうで、彼女の長い耳が揺れているのが見える。
「その男が    」
 バルフレアの椅子が僅かに軋んでゆっくりとこちらへ向いた。
    今ごろ黒い甲冑を着てこの艦内をうろついているとしても、俺は驚かないぜ。」
「え?!」
 ヴァンが思わず声をあげた。
「急に何を言い出すんだよ!どうしてジャッジが解放軍のことをバッシュに教えるんだよ?!」
 だが、バルフレアは事も無げに言った。
「そりゃ、娑婆に戻ってもらう前には予習が必要だろ?」「・・・予習?・・・」
 ヴァンは思わず頭が真っ白になって、ぽかんとした顔でバルフレアを見つめた。「あんた・・・・」

    あいつらがわざとバッシュを脱獄させたとでも言うのか!?」

 思わずバルフレアの方へにじり寄ったヴァンの肩を、ウォースラの大きな手が止めた。振り返ると、ウォースラは若い空賊に向かって背の大剣を突きつけるような鋭い視線を向けていた。そして当のバッシュは、動揺する様子は微塵もなく、ただ深い淵のように静かな視線をバルフレアに向けている。その静謐さは、混乱するヴァンをかえって不安にさせ、苛立たせた。
 ヴァンは邪険にウォースラの手を払うと、バルフレアに向かって顎を突き出した。
「そんなことして一体何の意味があるんだよ?!せっかく侯爵の弱味を握ったのに、口止めにならなくなるじゃ    
「お前本気で、コイツが生かされてたのは侯爵の口止めのためだと思ってるのか?」
 バルフレアは困惑しきったヴァンの肩を小馬鹿にしたようにポンと叩いた。
「口止めだけなら本物を生かしておく必要はないだろ。芝居が得意な代役がいるんだからな。」
 そして、一切の感情を殺したバッシュの顔を、覗き込むようにして言った。
「2年がかりで痛めつけても『おたから』の在処を吐かないとなれば・・・・本人に取りに行かせるのも別に悪い手じゃない。違うか?」
「・・・じゃあ、ヴェインの本当の目的は最初から・・・女神の魔石・・・」
 ヴァンの言葉に誰も答える者はなかった。答えは必要なかったのだ。あの魔石を手に入れた途端、身を明かした王女を罪人のように営倉に押し込めたジャッジマスター自身が、真の目的が何だったのかを雄弁に語っている。
 ダルマスカ王家の証の赫い魔石。ヴァンにとっては兄レックスの幻影を映し出す不思議な石。その石を得るために、ただ1人在処を知る将軍は密かに地下の監獄の中で     
「どうやら、王女御自身より大事な物だったようで?」
 影の中で、バルフレアのピアスが揶揄するようにキラリと光った。だが、バッシュは青銅の像のように微動だにしない。
「何言ってるんだよ!バッシュが逃げたのはたまたま俺達が居合わせたからだろ!?そもそもアンタ達が独房の方に行かなけりゃ脱獄なんて・・・」
 そう言いながら、「そもそも」の始まりは一体どこだったのだろう、という思いが一瞬ヴァンの頭を過ぎった。俺達がナルビナ送りにならなければバッシュは今もあの牢に・・・・いや、バッシュに殴りかかった自分をバルフレアが止めなかったら今頃・・・それとも・・・・
「仕込みの途中で都合がいいことが起きたなら、それに乗らない馬鹿はいない。」
 バルフレアは相変わらず人を食った調子で言った。
「実際、頼みもしないうちに自分から石を持ってきたわけだしな。・・・躾のいい犬でもこうはいかない。」
「いい加減にしろよ!」
 ヴァンは噛みつかんばかりの勢いで言った。
「魔石を持ってきたのはバッシュじゃない、俺だぞ!」
 バルフレアの言葉が意味する嫌な匂いが、ヴァンを酷く苛つかせた。
「パンネロがさらわれたのはバッシュには関係ない!ジャッジに渡すことになったのも、たまたまあの時、石が光って・・・」「    ああ、おかげで俺の報酬はパァだ!」「っ!?」
 出し抜けにバルフレアはヴァンの鼻先に指を突きつけた。面食らったヴァンは思わず声を飲み込んだ。
「駆け引きも出来ない坊やのお陰で、こっちはビュエルバくんだりまで来てとんだ只働きだ。」
 そう言って、バルフレアはさも不機嫌そうにくるりと背中を向けて立ち上がった。
「そろそろ行くぞ。・・・もう方向音痴は願い下げだからな、ヴァン。」
「何だよ、急に・・・・」
 いきなり話を切り上げられたヴァンは、コンソールの向こうの階段をさっさと降っていくバルフレアの背中を睨み付けた。
(自分から散々煽っといてさ・・・・)
 部外者だからって気安く言ってくれるけど、仲間を疑わせるような言い方をして何が面白いんだろう。
 ヴァンは思った。
 そもそも最初に魔石を狙っていたのはバルフレア自身だ。魔石となるとジャッジ以上に目の色を変えるのは自分の方じゃないか。いくら自分が手に入れるはずだった魔石が無くなったからって、あんな言い方することないじゃないか。
 忍び込んだ宝物庫で、突然女神像から現れた魔石。不思議な光と幻を見せてくれた、あの石。
 もし、俺より先に女神の魔石を手に入れていたら、バルフレアはどうするつもりだったんだろう?
(どうせどこかに高値で売り飛ばすつもりだったんだろうけどさ・・・)
 ヴァンは、漠然とした不安の中で思った。
 バルフレアがあの魔石をどうするつもりだったのかは分からない。だが、女神の魔石に誰よりも高い値をつけて買い取ろうとしていた者を想像するのはたやすかった。
     あの金朱の鎧のジャッジマスターだ。

 ヴァンの肩に、ウォースラがその大きな手をかけた。
「もういい、行くぞ。・・・盗賊の戯言に耳を貸す必要はない。」


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コメント 1

ルールー

こんにちは。
ちょっとずつ読ませていただきました。
人物背景などが重層的に描かれていて、読んでいてドキドキしました。
それでいて、原作から全く逸脱していないのが凄いです。。
続き、楽しみにしています。
by ルールー (2011-08-26 02:03) 

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