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Chap.6-5 The Floating Clouds  -浮雲亭-   [Chapter6 再会]

「こちらは浮き雲通りです。そこの角を曲がると、銘酒「ビュエルバ魂」で有名な浮き雲亭でございます。」
 昨日は封鎖されていた防具屋の奥の通りを真っ直ぐ突き当たりまで行ってみると、高い塀に囲まれた人通りの少ない裏通りが続いてた。通りは木のドブ板に縁どられ、昼間の熱気にすえたような臭いを漂わせている。昼間なのにどこか眠っているような、間の抜けた感じがする。それでもやっぱり、曲がり角にはビュエルバガイドがいて、道行く人に律儀に案内していた。

 酒場か・・・どおりで人気はあるのに昼間から寝惚けたような空気が漂っているのだろう。昨日の晩、バルフレア達が飲んでたのもこの通りかもしれない。
 表通りほど賑わってはいないものの、裏通りの気楽さで、浮雲通りでは酒で気持よくなった連中や地元の庶民達が観光客の目を気にせずに気楽なおしゃべりをしている。
「ガイド達のリーダーはハバーロっていうの。ちょっと陰のある、いい男なのよ。」
「え、どこで会えるの?見たーい!」
「街で働いてない時は浮き雲亭にいるわ。」
 口さがない女達がお気楽なお喋りをしながら歩いていく。女というものは空賊から街のガイドまでイケメンとくれば逃さずチェックをいれているらしい。そのうちラバナスタみたいに此処でも「ヴィエラを連れたいい男」が噂になるのだろう。
      ま、今は自分が噂の的なんだけどさ。
「さっき聞いたんだけど、採掘場前小広場にダルマスカのローゼンバーグ将軍がいたんですって。ま、どうせ酔っぱらいのたわごとよね。」
(・・・・・・。)
 まあ、採掘場前の話がここまで伝わってるんだから、まんざら自分が撒いた噂も広まってないわけではないらしい、とヴァンは思ったが、街をグルリと回ってきたヴァンは、浮雲通りが採掘場のすぐ隣の地区だということはあまり分かっていない。
「このへんはあまり観光向きじゃないよ。用もないのに裏通りをぶらつくと面倒に巻き込まれるかも知れないぞ。」
 キョロキョロしながら歩く少年に、親切心からヒュムの男が声をかける。それに耳を傾ける前に、ヴァンの顔の前にぬうっと巨大豚っ鼻が現れて、オレンジ色の鼻の穴から酒臭い息をぶわっと吹き出した。
「昨日オンドール侯爵とジャッジがここを通ったんだぜ!」
 酒でオレンジがピンクになりかかっているシークのオヤジは、ご機嫌でヴァンに向かってろれつの怪しい声をあげる。
「さすがは我らが侯爵閣下!誰もが恐れるジャッジの前でも、そりゃあ堂々としたもんだったよ!」
 そのシークと肩を組んだバンガが、相棒に向かって噛みつかんばかりに怒鳴る。
「帝国に支配されてるわけでもねえのに、ジャッジが兵士を連れて歩き回るとはよ・・・。オンドールは帝国の顔色をうかがう売国奴だ!」
「なんだとー?!」
「あンだよ!?」
「・・・!」
「・・・・」
 酔っ払い達はヴァンに勝手に絡んで勝手に放り出すと千鳥足で通りの奥へ行ってしまった。
 豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔をするヴァンを面白そうに眺めながら、ドブ板に腰をおろした青いシークとオレンジのバンガが冷やかすような声をかけた。
「ここいらは日が暮れると物騒だぜ。この前の晩も酔っぱらいが囲まれて殴られてたんだ。そいつ、反帝国組織がどうとか言ってたっけ。」
「侯爵が反帝国組織を支援してるって叫んだ酔っぱらいは、次の日から姿を見かけなくなったぜ。つまり、めったなことは口にするなってことさ。」
 そんな言葉を聞いてか聞かずか、ヴァンはさっさと酔っ払い達のあとを追って通りの角を曲がっていった。



「浮雲亭?・・・この先の看板が出てる大きな店さ。いつも酔っ払いが店の前にいるからすぐに分かるよ。」
 角を曲がったところでひとり遊びの男の子に声をかけると、男の子は慣れた調子で教えてくれた。
「オレの姉ちゃん浮き雲亭で働いててさ。ウェイトレスじゃなくてマスターやってるんだぜ。でもちょっかい出さない方がいいよ。マジこわいから。」

 少年に言われた方向に行ってみると、目的の店はすぐに分かった。手描きの看板が出ている大きな店には扉が二つもあって、その前にはガタイのいい鉱山労働者やこざっぱりした帝国人が様々に酔態を晒している。
「・・・・すまないが、そっとしておいてくれ。」
 青い顔をした帝国からの旅行者が店の前でうずくまった。
「ぬう・・・銘酒「ビュエルバ魂」・・・。ウワサに聞いていたが・・・これほどとは・・・!」
 塀の隅に「置き土産」をする帝国人の背中をさすりながら、ビュエルバ警備兵が困った顔で言った。
「毎日酔っぱらいの世話で大変なんです。特に旅行者の方、気をつけてください。酒は飲んでも飲まれるな、ですよ。」
 警備兵は周りに向かって言ったが、その片端の道端にぶっ倒れて酔い潰れているのは、どう見ても地元の労働者らしいバンガ族だ。
「・・・こいつと飲むといつも介抱させられるんだ。いいかげん適量ってもんを覚えて欲しいぜ。」
 バンガの突き出した太い尻尾を引っ張りながら、自分は酔う暇が無いとばかりにヒュムの男がため息をついている。
 豪快ないびきをかくバンガを笑って見ながら、青いシークが店の扉をくぐりながら言った。
「この店、浮き雲亭っていうんだ。客はルース魔石鉱の労働者が多いんだが、ガイドの奴らもよくここで集会やってるぜ。」
 ガイドがたむろしてるなら好都合だ。ここで聞いた噂をビュエルバに散らばる彼らの持ち場で広めてくれるかもしれない。
 ヴァンがトントンと入り口の階段を駆け上がると、一人のモーグリがモジモジしながら中を覗いている。
「浮き雲亭に初めて入ってみるクポ!ひとりじゃ心細いから友達と一緒クポ~。で・・・・・どっちが入り口クポ?」
「んなもん、どっちでもいいって。」
 ヴァンはモーグリの小さな腕をつかむと、まるで常連客並に堂々と酒場の扉をくぐった。






 扉を開けた途端、ヴァンの耳に野太い男達の笑い声がどっと押し寄せてきた。
「帝国の奴らがウロウロしていた間は落ち着いて酒を飲むどころじゃなかったよ。これで心おきなく酔っ払えるってもんさ。」
「ラバナスタじゃ始終帝国の奴らがウロウロしててよ。ビュエルバは自由でいいよな。自由に乾杯!」
 酒場の中では、暇な市民や夜勤組の鉱山労働者達が日も高いうちから盃を交わしていた。観光客向けのどこかよそ行きの表通りの店とは違って、あけっぴろげな大声があちこちから上がっている。
 ラバナスタの砂海亭より広い感じの店内は、飴色の光沢のある大きなカウンターが中央にどんと鎮座して、両側に長い腕のように伸びている。こちら側は小さなテーブルだけが並ぶ気楽な立ち飲み席になっていて、もう一方の扉の正面に当たる向こう側は、緑のフェルトを張ったカードテーブルが並んでいた。夜になればなけなし小遣いを賭ける鉱山労働者で賑わうのだろう。
「おう、どうした坊主?父ちゃんでも探しに来たか?ここにガイドのおにーさん達がいるから、遠慮無く聞いてみな!」
「案内なら他のガイドに頼んでくれ。オレは非番だ。」
 酔っぱらいのいい加減な声に、やはりいい気分にろれつの緩んだガイドが抗議の声をあげた。見れば、浮雲通りで耳にしたとおり、ビュエルバガイド達が数人集まってテーブルを囲んでいる。観光客から開放されて、ほっとする時間なのだろう。
「ビュエルバ名産「ビュエルバ魂」いかがクポ~?」
 店員モーグリが声をかけながらチョコマカと走り回っている。が、ヴァンの顔を見ると、
「クポ、君は見るからに未成年だクポ。ガイドの人に怒られるからお酒は売れないクポ~。」
 そう言ってさっさと他の客の方へ行ってしまった。
(そりゃ未成年には違いないけど・・・)
 ヴァンはなんだかムッとしてカウンターを見た。
「友達と待ち合わせしてるのクポ。なのに、いつまで経っても来ないクポ・・・・。早く一杯引っかけたいクポ~!」
 待ちぼうけらしい黄色いボンボンのモーグリが、チンチン!とグラスを叩いて、自分の背よりも高い椅子の上で跳びはねている。
 そういうモーグリ族なんて、みんなヒュムの子供ぐらいの大きさで、子供みたいに無邪気にクポクポ言って、大人か子供か全然見分けつかないのに。
「モーグリ族が酒を飲んで何か文句でもあるクポ?」
 ヴァンの視線を感じたモーグリが、小さな口をキュッと結んで、クリクリ目玉を向けた。
「モグは君と違ってもう立派な大人クポ。あーんなこともこーんなことも知ってるクポ。」
「わ、わかってるよ!」
 ヴァンはボンボンを振り回して怒るモーグリから早々に退散すると、カウンターのど真ん中の席にどかっと腰を降ろした。
 あーんなことやこーんなことって、どーんなことだよ。そんなこと、俺だってとっくに知ってるよ。
(・・・・たぶん。)
 勝手に赤くなったヴァンが酒に酔ったようにでも見えたのか、青いシークが隣に腰をおろして酒臭い息で話しかけてきた。
「銘酒「ビュエルバ魂」って知ってるか?よそ者にゃ飲ませたくねえビュエルバ名物さ。・・・・・・おめえみてえなガキには百年早えぜ。」
「ほらほら、絡み酒はよしな。行儀の悪い客はたたき出すよ。」
 カウンターの向こうのヒュムの女が冗談とも本気ともつかない声で酔っ払いを追っ払った。
 ヴァンが顔を上げると、浅黒い肌に大作りな顔立ちの女が艶っぽい笑顔をこちらに向けている。
「ここは浮き雲亭。労働者達の憩いの場さ。そしてあたしがマスターのメリサ。坊や、ゆっくりしていってちょうだい。」


「外は暑いだろ?坊やにはナンナのミルクでもあげようか?」
 メリサは愛想よく笑いながら冷えて曇ったグラスを取り出した。
「それよりさあ・・・」
 ヴァンはカウンターに身を乗り出すと、周りの騒音に負けないように大声で言った。
「反帝国組織の連中って、どこに行ったら会える?」
「・・・・何だって?反帝国組織?坊や大丈夫?     誰だい、この坊やに飲ませたのは!」
 ヴァンの質問をまるで相手にせずに、メリサは露をたっぷり纏ったミルクのグラスをヴァンの前に置いた。朝から怒鳴りっぱなしの走りっぱなしで喉がカラカラだったヴァンは、思わずグラスに飛びついた。ポケットから小銭を投げ出すようにして勘定を払うと、一気に飲み干した。冷えたミルクが喉を気持よく駆け抜けていく。
 ふうっと満足した息を吐くと、ヴァンは口の端に白いミルクをつけたままカウンターに飛び乗った。

「俺の名は、バッシュ・フォン・ローゼンバーグ!!バッシュは生きているぞ!!」

 元気いっぱいな少年の声が酒場の喧騒を制して響き渡った。
 その瞬間、耳を破りそうな酒場の賑わいが一瞬で凍りついた。
 酒場中の客という客が、グラスを持ったままポカンとした顔でヴァンを見た。

「オンドール侯の発表は嘘っぱちだ!」

 静まり返った室内に響いたヴァンの声だけが響く。
 店員も客もビュエルバガイド達も、まるでブレイクの魔法で石になったみたいに動かない。

 
「何してるんだい!?もう一樽酒蔵から上げとくれって言ったろ!」
 その沈黙を破ったのは、メリサの歯切れのいい声だった。
「ほら、酒が切れちまうよ!」
 その声が解除魔法のストナの呪文だったかのように、店内は再び何事もなかったかのように動き始めた。まるでカウンターの上の少年などいなかったかのようだ。
「もう、忙しい!マグーが怠けてるせいだわ!ちょっとそこの坊や!マグーをたたき起してちょうだい!」
「え、俺?」
 女店員の勢いに、ヴァンは素直にカウンターから飛び降りてキョロキョロと店内を見回した。
「そこの酒瓶のところで飲んだくれてるシークのことよ。あれでお給料もらってるなんて、まったくもう!」
 ヴァンはミルクのグラスを置くと、言われるままにカウンターの後ろに並んだ酒棚の脇で、空の酒瓶と一緒に転がっているデップリとしたシークの方へ行った。
「おい、おっさん。起きなよ・・・」
 ヴァンがマグーと呼ばれたそのオレンジ色のシークの太鼓腹をつつくと豪快なイビキがやんだ。太い腕に両手を回して引っ張ると、腫れぼったい瞼が片方だけ動いてドロンとした目が覗いた。
「起きろって!メリサさんが酒を持って来いってさ!」
 ヴァンは腰を入れて踏ん張ったが、シークの巨体はなかなか持ち上がらない。
「なあ、あんたは反帝国組織ってどこにあるか知らないか?」
「ん?メリサが呼んでるって?・・・はあ?組織だと?そいつは美味いのかい。ブヒヒ」
 聞いているのかいないのか、マグーは呑気な笑い声を上げるだけでさっぱり起きようとしない。ヴァンがいくら引っ張っても、とろけたプリンよろしく、またグダグダと床にのびてしまった。
「ちぇっ!もう知るもんか!」
 ヴァンはとうとう痺れをきらしてオレンジ色の丸太ん棒みたいなマグーの腕を放り出した。そもそもどうして俺が店員の手伝いなんかしなきゃいけないんだ。
 肩をそびやかして席に戻ろうとするヴァンに、酔客の一人が愉快そうに声をかけてきた。
「あんた、ダルマスカの将軍だって?」
「ああ、俺がバッシュだ。」
 ヴァンがすました顔で答えると、赤い顔のその男はニヤリと笑ってさらに聞いてきた。
「そのバッシュ将軍様が、酒場で一体何やってんだ?」
「あ、えと・・・探しものだ。」
 ヴァンも引けずに胸をそらして言った。
「反帝国組織のアジトを探している。」
「ほお、探しものですかい?だったらこいつに聞くのが一番さ。」
 一緒のテーブルで飲んでいたビュエルバガイドの肩をポンと叩いた。仲間の戯れ言の巻き添えにされて、ガイドは日焼けした顔でバツが悪そうな笑顔をヴァンに向けた。
「すみませんねえ、今は非番なんですよ。」
「将軍を前にして非番も何もないだろう。」
 引込みがつかない勢いでヴァンは高飛車に迫った。
「オンドール侯爵が帝国に抵抗するために援助してるって組織だよ!」
「・・・・え?組織?侯爵が帝国に抵抗?それ早口言葉ですか?」
「ガイドのくせに知らないのか?」
 もはや見た目どころか口調も将軍とは似ても似つかぬヴァンだったが、「うわっ!」
 いきなり襟首を踏ん掴まれて、子猫みたいにひっペがされた。
「なんだお前、ああん?」
 破鐘のような声と共に放り出されたヴァンの前に、鶯色の鱗をしたこわもてのバンガが仁王立ちしていた。大きな拳をヴァンの鼻先でギリギリと握しめている。たちの悪い酔客をさばく酒場の用心棒だ。
「反帝国ナントカだあ?おかしな言いがかりつけると叩き出すぞ!」
「わ、わかったよ・・・そう怒るなって・・・」
 バッシュのバの字でも言おうものなら噛みつかんばかりのバンガの勢いに、ヴァンはそそくさと退散することにした。
 そんなコメディを酒の肴にに、客や非番のガイド達が苦笑交じりのおしゃべりを続けている。
「まあ帝国に反感を持つ市民は多いですが、オンドール侯爵は中立を貫く方針です。そんな組織を作ったらたちまち逮捕されますよ。」
「ビュエルバの経済力なら帝国にも抵抗出来ると考えてる人も多いが、僕は賛成しないな。空路を封鎖されたら、この街はすぐに食糧危機さ。」

 カードテーブル脇を回ってもう一方の出口へ向かいながら、ヴァンは不平たらたらで思った。
 まったく、どの客もさっぱりヴァンの言うことに耳を貸してくれないし、反帝国組織の存在すらろくに信じようとしない。ましてやそれを公爵が援助してるなんて、考えもしない連中ばかりだ。
(バルフレア達はああ言ってるけど、本当に侯爵って帝国に歯向かう気があるのかなあ。)
 ルース魔石鉱での公爵の様子を思い出すにつけ、ヴァンには侯爵が帝国に抵抗するつもりなのか、どうにも心もとなく思えてくるのだった。
 それでも、何としてでも公爵に繋がる連中の尻尾をつかまなくてはならない。パンネロを助け出すためなのだから。・・・さてと、次はどこで騒いでみようかな・・・

      と、出口の扉まできたヴァンは立ち止まった。
 扉にもたれていた男が、ヴァンをじっと見ながらゆっくりとこちらに歩いてくるのだ。
 ふと周りを見ると、左と右からも男達がこちらへ近づいてくる。どの顔も酒の入った様子はカケラも無い。
「・・・・・???」
 まるでネズミを狙う猫みたいだ、と頭の隅で思うのと、背後にぞっとするような視線を感じたのは同時だった。
 ヴァンはゆっくりと振り返った。

     おい、小僧。ちょっと俺達と来てもらおうか?」
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