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Chap.6-4 I'm the General! -俺は将軍(3)- [Chapter6 再会]

「ローゼンバーグ将軍が生きている!?バカな!」
 口角泡を飛ばさんばかりに怒鳴るビュエルバガイドに、ヴァンは思わず声を飲み込んだ。
 いつも慇懃なガイドの余りの剣幕に、冷やかし笑いをしていたドラヴィカ大通りの市民達までが顔を見合わせる。
 一瞬冷水を浴びせられたように冷えた大通りの空気を感じて、ガイドは周りを見まわした。見れば当の「自称・将軍」の少年は、ビュエルバ市民と仲良く肩を並べてポカンとした顔でこちらを見ている。
「・・・失礼。そんなはずはありませんよ。」
 空気を読み損ねた気まずさからか、ビュエルバガイドは「コホン・・・」と、勿体つけた咳払いをしてヴァンに言った。
「ビュエルバは自由な国ですが、何事も限度があります。はめを外すのはほどほどに。」

(・・・なんだよ、いつもはニコニコしてるくせにさ!)
 ヴァンは口を尖らせた。ビュエルバガイドは観光客の前ではやたら愛想がいいくせに、ヴァンの声には青筋立てて怒鳴りつけてくる。持ち場を離れてまで文句言ってくるんだから相当なものだ。
 そりゃ、ガイドを雇っているのは侯爵だから立場としては聞き捨てならないだろうけど、苦笑い半分で追い散らしに来るビュエルバ警備兵の方がまだ愛想がいい。
 それでも懲りずに元気に吹聴しながらヴァンは大通りを駆け抜けた。通りだけでなく、人が集まる店にも首を突っ込んで大声をあげる。
「オンドール侯の発表は嘘っぱちだ!」
 賑わう武器屋で目を丸くする客達を尻目に、「次の店は・・・」とドアを開けると、頭を突っ込むなり、
「俺の名は、バッ・・・!」
 ・・・と言いかけて、ヴァンの声が止まった。

「いらっしゃいまし・・・。」
 薄暗い店の中で幽霊みたいな老婆がぬぅっと顔を上げた。
「いらっしゃい・・・防具屋です・・・・。」
 埃を被った気の滅入りそうな店内に、気の滅入りそうな店主の声が、じわぁっと床の上を這ってくる。
「武器だけじゃなく・・・よかったら防具も・・・・。」
 一生取り憑かれそうな貧乏臭~いオーラが店中から滲み出してヴァンにまとわりつく。「・・・あ、あの・・・」
「・・・い、今のは聞かなかったことにして!サヨナラ!」
 ヴァンは引きつった作り笑いをしてドアを閉めた。


「俺の名は、バッシュ・フォン・ローゼンバーグ!!」
 ヴァンが大きな門の前で胸を張ると、ヒュムの女が鼻で笑った。
「あら、あなたもしかして知らないの?ダルマスカが負けた時にオンドール様が発表したのよ。アーシェ王女は死んで、将軍は処刑されたって。」
「あんたがローゼンバーグ将軍だってのか?」
 そう言ってシークのオヤジはニヤリと笑うと、
     なら俺は帝国の皇帝様だ!文句あるか!」
 ヴァンの頭が吹き飛びそうな勢いで怒鳴ると、豚鼻を膨らませてヒッヒッと笑った。「・・・いるんだよなあ、ときどきこういう奴がさ。」
 だが怒鳴られたヴァンは一向に平気な顔で、門の向こうをチラ見しながらしゃあしゃあと怒鳴り続ける。
「バッシュは生きているぞ!オンドール侯の発表は嘘っぱちだ!」
 観光客や市民達が怪訝な顔をしながら通りすぎていく。
「さっきから何をやっているんですか!」
 さすが目についたらしく、ビュエルバ警備兵が耳が痛くなるほどホイッスルを鳴らしながら走ってきた。
「公道でのおかしな宣伝活動は禁止です!さあ、静かにしてください!」
「はいはいはーい!退散すりゃいいんだろ!」
 慌てて橋の方へと逃げ出すヴァンの姿を、市民達の冷やかすような笑いが追いかける。
 それでもヴァンは済ました顔で声を張り上げた。
「俺の名は、バッシュ・フォン・ローゼンバーグ!!」

「オンドール侯の発表は嘘っぱちだ!」





(やっぱ侯爵邸の前でやったのはまずかったかな。)
 
 ベンチに腰を降ろして、ヴァンはふうっと息をついた。巨大な空中橋を駆け抜けてビュエルバ飛空艇ターミナルに駆けこむと、涼しい風が気持ちよくヴァンを包んだ。
 ターミナルは昨日と比べると見違えるように旅行者でごった返していた。
「ビュエルバはオンドール侯爵家が統治する自由な中立都市です。ごゆるりと観光をお楽しみください。」
 帝国兵の封鎖が解けたターミナルをビュエルバ警備兵が誇らしげに歩いている。
「ラバナスタから来たのかい?そっちじゃ帝国の奴らがいばりちらしてるんだってな。ビュエルバじゃ帝国兵も大人しいから安心しなよ。」
 いかにも田舎ものらしく不安げに周りを見回す旅行者に、ビュエルバの男が笑って声をかけている。
 ヴァンが一休みにと腰をおろした待合所のベンチには、搭乗を待つ者、迎えに来た者達が穏やかなおしゃべりをしながら、天井までガラス張りの壁の向こうを行き交う様々な形の飛空艇を眺めている。
「ビュエルバには数多くのモーグリ達が住んでるクポ。この街はモグたちの技術で発展したと言っても決して過言ではないクポ!」
 緑色のボンボンのモーグリとオレンジのボンボンのモーグリが、迎えた相手に向かってさっそく自慢げに話をしている。
「ビュエルバのフネには、モグたちの技術が生かされてるクポ。性能なら帝国なんかのフネに負けないクポ!ルース魔石鉱の良質な魔石をエネルギー源にしたビュエルバ製の飛空艇は世界一クポ!」
「僕ね、大きくなったら飛空艇を運転する人になるんだ。今からいろいろモーグリ先生に教わってるんだ。先生、さっきラバナスタ行きに乗って行ったよ。」
 モーグリと話すヒュムの子供の脇では、黄色いボンボンをションボリたらしてモーグリが恨めしそうに空を見上げている。
「買い物してたらラバナスタ行きの便に遅れたクポ・・・。こんな時自家用飛空艇があればきっと便利クポ。だけどさすがに高くて手が出ないクポ・・・。」
 そんな落ち込むモーグリを知ってか知らずか、隣のベンチではどこかで見たような家族が、どこかで聞いたような会話をしている。
「ねえ、うちにはちゃんと自家用飛空艇があるのに、どうして交通公社の飛空艇で旅行するの~。トロいし、混んでるじゃんか。」
「あら?ゆったりした特等席から平民たちを眺めて旅するの、ママ大好き。坊やも大人になればわかるわよ。」
「そうだね、ママ。パパはそんなママが世界で一番好きさ。」
 落ち込むモーグリは、そんな家族を横目に見ながら、隣の席に腰をおろした帝国からの旅行者に言った。
「悔しいけど帝国の人が羨ましいクポ。帝国の人はみんな自家用飛空艇を持ってるクポ?」
「そんなことはない。」
 帝国からの旅行者は鷹揚に笑って答える。
「帝国の人間総てが自家用の飛空艇を所有しているわけではないのだよ。裕福な特権階級が持っているにすぎんのだ。」

      そうなんだよなあ、と聞いていたヴァンもボヤく。
 飛空艇って中古のオンボロでもとんでもなく高いんだ。いつか空賊になると言ったって、今の生活じゃポンコツだって手に入れることが出来るのか、怪しいものだ。
(・・・にしては、バルフレアの奴、いい飛空艇を持ってるよなぁ。)
 ヴァンはこのビュエルバまで乗せてもらったた白い翼のスマートな機体を思い浮かべた。
 素晴らしいスピードといいデカい砲門といい、ダルマスカどころか帝国軍の戦闘機より上をいってる感じさえする。可変型の翼は特別に高価でメンテナンスも手がかかると、ラバナスタの機工士モーグリから聞いたことがあるが、そんな贅沢な飛空艇を、彼はどうやって手に入れたんだろう?
(・・・盗んだのかな?)
 だったら正面きって飛空艇ターミナルに乗り入れられるわけがないし。いったいどんなお宝を手に入れたら、あんな凄い飛空艇を買えるんだろう。
(そういえば、魔石抗で妙にラーサーにからんでたよな・・・)
 ラーサーが持っていた青い石・・・人造破魔石とか言ってたっけ?あれを見た途端、バルフレアは顔色どころか態度まで変わってたっけ。
 ヴァンは幼いラーサーを問い詰めるバルフレアの様子を思い出して首を傾げた。
 あの様子はただごとじゃなかった。俺から女神の魔石を取り上げようとした時すらムカつくくらいの余裕を見せてたのに、小さな子供相手にマジになって・・・
(もしかして、あれ1個で凄い飛空艇が買えるのかも     

「お兄ちゃん、ラバナスタの人?」
 ふいに子供の声がしてヴァンが我に返ると、隣でヒュムの男の子が興味深々な顔でこちらを見ていた。ヴァンが素肌に羽織った短いベストを見てラバナスタの人間だとわかったらしい。
「家族でラバナスタに行くんだよ。ラバナスタはアルケイディアに占領されちゃったから、服も食べ物も自由に買えないって、ほんと?」
 その無邪気な言葉は、ヴァンを空賊の飛ぶ空から重苦しい地上へと引き降ろした。
「ああ・・・いや・・・」
 ヴァンは旅を前にして目を輝かせている子供の顔を見て返事につかえた。
「大丈夫だよ。・・・あいつらの言いなりになってる分にはさ。」

(そういうのは自由って言わないけどな。)
 両親に手を引かれて搭乗口へ向かう子供の小さな背中を、ヴァンは苦い思いで見送った。
 鎖に繋いだ犬に餌を投げ与えるような平穏、それがアルケイディアが嘘で固めてダルマスカにくれた平和だ。そこに自由も真実もありはしない。だからこそ、解放軍は戦い続け、裏切者の烙印を押されてもなお、バッシュは再び剣をその手に取ったのだ。自分だって     
 ヴァンは唇を噛んだ。
「・・・帝国兵の財布を掏るのだって、ダルマスカのものを取り戻すことなんだからな・・・」
 いつものセリフを呟いてみても、それを叱ってくれる少女がいない今、言い訳は言い訳にもならず、ひどく虚しかった。ヴァンは言い訳を探すように顔を空に向けた。だが、招くような青い空は見えず、ただ飛空艇ターミナルの暗い天井が見えただけだった。
「・・・俺は、パンネロを助け出すんだ。」
 ヴァンはそう呟いて、少し笑った。それだけは一点の曇りも無い本当の気持ちだった。
 ヴァンは立ち上がると、ターミナル中に響けとばかりに怒鳴った。

「バッシュは生きているぞ!オンドール侯の発表は嘘っぱちだ!」

 それは、胸を張って言える紛れもない真実だった。
 だけど     
 ヴァンの声に目を丸くした人々の視線の中で、ヴァンは思った。
 今自分がやっていることは、解放軍の足を引っ張ることなのだ。ビュエルバの自由を危うくするかもしれないことなのだ。
 大事な人を助けること。・・・そんな当たり前のことをするために、味方のはずの解放軍の邪魔をする。
 ねじ曲げられた真実を正すこと。・・・そんな当たり前のことが、味方のはずの解放軍には邪魔になる。
 いったい、正しいことって何なのだろう。
 血相を変えて駆け寄ってくるビュエルバガイドと警備兵から逃げ出しながら、ヴァンは思った。
 自分たちも、解放軍も、・・・・そしてきっと侯爵も、願っていることは同じはずなのに、どうしてこんな風に互いに足を引っ張りあうことになってしまったんだろう     

 ターミナルをバタバタと走るヴァンの耳に、騒動を意にも介さない市民達の声が聞こえてきた。
「次のアルケイディア皇帝はヴェイン・ソリドールでほぼ決まりって話だが、ダルマスカ統治に失敗したら、どう転ぶかわからないよ。」
「ヴェインの兄弟って残りは弟が一人だけだったかねぇ・・・やっぱり決まりだろ?・・・」
 ヴァンの目に執政官の鋭い顔が蘇った。ガラムサイズ水路で自分達を待ち構えていた彼の冷厳とした表情を思い出すと、ヴァンは、自分が何か得体のしれない罠の中にいるような、形のない不安を感じて苛立ちを覚えた。
 そして、その思いを吹り払うように、再びビュエルバの街へとかけ出していった。

「バッシュは生きているぞ!オンドール侯の発表は嘘っぱちだ!」

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