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Chap.5-6 The Lhusu Mines -ルース魔石鉱(2)- [Chapter5 空中都市]

 闇色の翼が音もなく迫る。淡い光に濡れた牙が白く光る。
 ヴァンは石の階段を駆け下りながら、群れ飛ぶスティールへと短剣を翳した。
「それっ!」
「キ    ッ!!」
 一撃を受けたコウモリは風に散る木の葉のようにクルクルと墜ちていく。その羽が地を撫でる前にヴァンは2匹目へと刃を向ける。遅れて駆け下りるラモン達の足音がバラバラと冷たい坑道の中で踊る。
 跳ぶように踊り場へと駆け下りたヴァンが振り向き様にもう一匹を仕留めた時、
 アサシンダガーの緋色の刃をかいくぐった1匹が、追ってくるラモンの小さな姿へと迫った。「ラモン!」
 少年は臆することなく優美なレイピアをその手に構える。
「やあっ!」
「キ    ッ!!」
 ジュワユースが一閃、スティールは絹を裂く悲鳴をあげて真っ逆様に湿った石畳へと墜落した。
 バルフレアが構えた銃を降ろしながらヒュゥと小さく口笛を吹いた。フランとバッシュが無言で目を合わせる。
「へぇ、その剣って飾りじゃないんだな!」
 ヴァンの声が坑道に響いた。
「強えじゃん、ラモン!誰かに剣技でも教わってんのか?」
「いえ・・・ほんの嗜む程度ですよ。」
 ラモンは事も無げにレイピアの血を払うと、涼しげに笑った。
「たしなむ・・・ね・・・」
 ヴァンも調子を合わせるように、とりあえず笑ってみた。
(・・・「たしなむ」程度って、どれくらいの程度なんだろ?・・・)

 ラモンと並んで急な階段を降りながら、ヴァンは遙かに高い坑道の天井を見上げた。
 緑深い山の下にあるためか坑道の空気はしっとりと湿り気を帯び、大きな切石を積み上げた壁にも天井にも地衣類が斑に拡がって、まるで古い地図のような模様を描いている。
「ルース魔石鉱って・・・なんだか、鉱山っていうより古い神殿みたいだな。」
 壮大とも言えるその巨大な地下空間に、ただ5人の足音だけが高く響く様は、確かに休業中の坑道というよりは年降りた遺跡にでも来たような沈んだ静けさを際だたせていた
「そう感じるのも当然ね。神話同然の昔から掘り続けられてきた古い鉱山よ。」
 フランが周りの気配に長い耳を澄ませながら言った。「・・・ヒュムがプルヴァマ住み着く前に、既にモーグリ達が掘っていたわ。」
「それもノノの自慢か?」
 スパナをかざして胸を張るノノを思い出してヴァンが笑うと、大人達はそのヴァンに思わず苦笑を漏らした。
 穏やかな声でバッシュが言った。
「魔石鉱がここまで大きくなったのも、モーグリ達が掘削技術を発展させてきたからだ。モーグリの技術が飛空艇を生み、魔石鉱を発展させ、更に優れた飛空艇技術を発展させてきた。ダルマスカの飛空艇も、ほとんどがビュエルバのモーグリ達の手によるものだ。」
「先の戦役じゃさぞや儲かっただろうな。」
 相変わらずバルフレアは皮肉な言い方をする。
「今度は帝国相手に良い商売ってわけだ。・・・もっとも、あの様子じゃ刃の上を渡るような芸当が要るみたいだがな。」
 バルフレアの目が前を行くラモンの背を掠めるようにして坑道の入り口の方を振り返った。その視線の先を見ながら、ヴァンはバルフレアに言った。
「・・・さっき侯爵と話してた金色の鎧の奴、あれもジャッジマスターなのか?」
「ああ。侯爵にああいう口が利けるんだ。おそらく、ジャッジマスターだろうな。」
 バルフレアは、聞いたのがラモンであるかのように、少年の背中に向かって答えた。
「この空域に集結中の第8艦隊は、誰が率いてるんだったかな・・・」
(・・・?)
 ヴァンは妙な気がした。バルフレアの言い方は、思い出そうと言うより、まるでラモンに聞いてるみたいだ・・・
「採掘現場は、このずっと奥なんですね。」
 ラモンは振り向きもせずに、手にした地図と坑道の奥を見比べながら言った。
「ああ、中は坑道が網の目のように延びてる。迷子になるなよ。」



 石造りの坑道は螺旋に巻いた階段でどんどん下へと続いていく。やがて天井は低くなり、代わりに幅がぐっと広くなって、複線のレールが銀色に光りながら延びる太いトロッコ道になった。白っぽい大きな石で組み上げられたトンネルの両脇には、魔石を山積みしたトロッコがレールを蹴って飛ばす火花の後が錆の飛沫となって赤黒く染みついている。
 壊れたトロッコや錆びたつるはしが転がる静まりかえった坑道を、二人の空賊が先導し、周りに見とれがちな少年達を挟んでしんがりをバッシュが押さえる。坑道は所々で可動フェンスが降りて通れなくなっていた。通行止めという記載はラモンが買った坑道の地図には書かれていない。今日が休業日だからなのか、それとも・・・。
 時折牙を剥いて急降下してくるコウモリを難なくたたき落とし、四人の足は止まることなく奥へと進んだ。
「あの    
 傍らを行くラモンが、ためらいながらヴァンに声をかけた。
「先ほど、あなたの友人がさらわれたと聞きましたが    
 ラモンは大人びた眉を曇らせてヴァンを見上げた。
「どういう事情が・・・」「知らないよ。」
 ヴァンは口を尖らせて邪険にラモンの言葉を遮った。
「バッガモナンとかいう賞金稼ぎのバンガの一味がバルフレアの首にかかった賞金を狙っててさ。巻き込まれたんだ。    なあ!」
 ヴァンは、素知らぬ顔で前を行くバルフレアの背中に声を浴びせた。
「あいつらと何があったんだよ?バッガモナンの奴、金が欲しいだけじゃないんだろ?」
「お喋りな坊や達は知らなくていいことさ!」
「ちぇっ!またかよ。」
 こちらを振り向きもしないバルフレアの背中を、ヴァンは本気で蹴り飛ばしてやりたいと思った。
「いい加減にガキ扱いはやめろって!・・・どうせ、どこかの女の子だまして恨みでも買ったんだろ?」
 口を尖らせるヴァンに、思いがけず背後から声がかかった。
「君の友人・・・確か名はパンネロと言ったな?」
「あ?・・・うん。」
 ヴァンは少し驚いて振り返った。まさかバッシュが女の子の話に自分から入ってくるとは思わなかった。だが、バッシュは相変わらず生真面目な顔でヴァンに聞いた。
「君と歳は同じか?」
「いや、一つ下・・・16だけど?」
 パンネロの歳なんか聞いてどうするんだろう?とヴァンは思ったが、
「・・・そうか。」
 バッシュはそれだけ言うと、再び坑道の奥へと目を向けて、それきり黙ってしまった。
(なんだよ・・・)
 なんだか拍子抜けしたヴァンを、ラモンが尚も物問いたげな顔で見ている。詮索するようで気が引けても好奇心は隠せないのだろう。
 坑道に延びる錆びたレールの上を伝い歩きしながら、ヴァンは誰言うともなく言った。
「・・・パンネロと俺達兄弟は幼なじみなんだ。パンネロの両親ってラバナスタでも指折りの商人だったんだけど、気さくで世話好きな人でさ。両親を亡くした兄さんと俺の面倒もよく見てくれた。『息子達は前線に詰めて滅多に帰ってこないから、男の子がいると賑やかでいい。』っていつもニコニコして・・・あ、パンネロの兄さん達ってダルマスカ騎士団にいたんだ。・・・みんな戦死したけど。」
 ラモンは、何か言おうとしたが、言葉が見つからないのか顔を曇らせたまま口ごもった。
 ヴァンはチラリと背後を盗み見たが、ただバッシュの足音が聞こえただけだった。
「それからしばらくして・・・パンネロの両親も戦闘に巻き込まれて死んだ。帝国に占領されてからは、騎士団が暗殺事件に関わったからって家も財産も全部帝国に取り上げられた。・・・パンネロはひとりぼっちなんだ。」
 いつの間にか、ヴァンは自分に向かって話しているようだった。すぐに怒って、ふくれっ面して、よく笑って、ふいに心細げな顔をする、パンネロの顔が次々に目に浮かんだ。
 ヴァンは立ち止まった。
     パンネロは信じてくれたんだ。兄さんのことを。」
 振り返ったヴァンに目を向けられて、バッシュも立ち止まって顔を上げた。
「ラバナスタ中の人間が、兄さんをあんたの仲間だと疑っても、パンネロは信じてくれた。あんたと兄さんのせいで、ダルマスカ騎士団が・・・パンネロの兄さん達が名誉を無くしたと罵られても、パンネロは最後までレックス兄さんのことを信じて・・・」

 いつだって自分の味方をしてくれた。
 いつだって自分の隣にいてくれた。
 パンネロがいてくれたから、俺はひとりぼっちじゃなかった。

    今、パンネロはひとりぼっちなんだ。だから・・・必ず俺が助ける。」
 ヴァンは噛み締めるようにそう言うと、微かに白い光の射す坑道の奥へと駆けだした。






「あれ?・・・」
 ヴァンは思わず立ち止まった。汗ばんだ頬にさぁっと涼しい風が当たる。トンネルから光の中へ飛び出したヴァンは、自分の両側の壁が突然真っ青な空に変わっているのを目にしていた。
「・・・地下だと思ったのに、空が見える。」
 足下をゆっくりと動いていく白い雲に、行き交う飛空艇が小さな影を落としている。見下ろすヴァンの傍らで、ラモンが地図に目をやった。
「オルタム橋・・・ですね。」
 ヴァンはトロッコ線路の路肩からおっかなびっくり身を乗り出した。坑道は両側に作業用の細い通路を残したっきりで、手すりもないまま天空に掛かる橋になっているのだ。
 目もくらむ高さに怖じ気づいたのか、立ち止まって足下を見下ろす二人に、
「ここはプルヴァマだぜ。底まで掘り抜けば足下は空ってわけだ。はしを歩く時は気を付けろよ    」
 と、バルフレアが言い終わる前に、
「へへっ!」
 ヴァンはご馳走でも見つけたような目で笑うと、
「こういう端っこにお宝が忘れてあったりするんだよな~。」
 と、目もくらむ高さなど何処吹く風で橋の脇の狭い通路に駆け下りた。
 その途端、

 どっかーん!!

「ぎゃー!」
 ヴァンは地雷か何かを踏んづけて盛大に吹っ飛んだ。
「だから言ったろ?」
 バルフレアがすまして言った。
「開放部には外から入る魔物や盗掘避けのトラップがあるからな。」「先に言えよ・・・」
 ボロぞうきんみたいになったヴァンに、ラモンが無理矢理な笑顔を作って言った。
「ハイポーション要ります?」「・・・うん。」


「よし、復活!今度こそお宝をみつけてやる!」
「ああ、それからヴァン・・・」

 ちゅどーん!!

「うがぁ!!」
「トラップは一つじゃないからな。」「・・・だから先に言えって・・・」
「ハイポーション要ります?」「・・・サンキュ。」


「空中橋の次は分かれ道か・・・よし、こっちの抜け道だ!」
「おい、そっちは・・・」

 ドドドッどっかーん!どどっかーん!!

「ぐぇぇっ~!!」
「・・・側道は鉱山用心棒を置かずに済むようにトラップがあってだな・・・」「・・・だ、だから先に・・・」
「ハ、ハイポーション要ります?」「・・・出来ればフェニックスの尾もよろしく・・・」


 景気よく吹っ飛ぶヴァンを眺めながら、フランとバッシュが深ーい溜息をついた。
「・・・あの子の友達やるのって大変ね。」
「・・・・・・。」
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