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Chap.5-5 The Lhusu Mines -ルース魔石鉱(1)- [Chapter5 空中都市]

 ヴァンは目の前に広がったガランとした広場を見渡した。
 白い敷石が日差しを照り返す円形の広場には、行き交う採掘作業員の姿も警備兵の影も無く、坑口の崖を縁取る緑の木々が風にザワザワ鳴る音だけが、やけに大きく聞こえる。

 坑道入り口に向かって階段状に下っていくと、広場の中心には小さな水門が口を開けていて、坑道から湧き出した水が細い水路をサラサラと静かな音をたてて流れていた。
 大通りの喧噪が嘘のように静かだ。
 坑口に向かって尚も階段を降りると、石畳を叩く5人の足音は広場中に響く。その音に、水と風の音とは違う低い囁き声が混じるのを耳にして、ヴァンがずっと右手の広場の端に目を遣った。
 崖を覆う緑がレース織りのような影を落としている下で、大柄な青いシークと黒いバンガが行商人を相手に呑気な世間話に興じている。休業で暇を持て余している作業員だろうか。それとも、採掘用心棒達だろうか。
「お前ら観光客かぁ?・・・魔石鉱に興味があるたぁ、物好きな連中だな!」
 シーク達もヴァン達の姿を見て気安く声をかけてきた。
「今日は魔石鉱は休みだぜ!アルケイディアのお偉方が視察に来てるからな!」
 二人の声が静まりかえった広場の石畳に反響して、周りの森に吸い込まれていく。
「悪いことは言わねえから子供は帰りな!ルース魔石鉱にゃあモンスターがうようよしてやがるからな。俺達採掘用心棒がついてないと危ねえんだ!」
「用心棒なんかいらないよ!」
 子供と言われてムッとして、ヴァンは思わず言葉を返した。
「その帝国の連中だって入ってるんだろ?俺達だって頼まないよ!」
「へっ!生意気言ってんじゃねえよ!」
 シーク達は面白そうに鼻で笑った。
「連中は護衛を大勢引き連れて入って行きやがったから、俺達用心棒の出る幕はねえんだよ!」
 口ではそう言いながらも、二人はまともに止める風でもない。ヴァン達5人をニヤニヤ笑いながら値踏みするように見ただけで、
「今日は妙な連中が出入りする日だぜ・・・へへへ・・・」
 後はもう自分達は無関係とばかりに背を向けて、話の続きを始めた。
「妙っていや、このところルース魔石鉱で採掘される魔石の質が落ちたって話をよく聞くけどよ・・・」
「変な話だよな。ここから運び出される魔石は前と変わらず最高級品だってのに・・・」
「帝国のお偉方が来たのも、そのことと関係あるんじゃねえか。巷じゃ魔石が品薄らしいしな。」
「本当かぁ?俺が見るに採掘量だって変ってないはずだぜ     
 彼らの声が、ザワザワと鳴る葉擦れの音の中に消えていく。見上げれば、ここでもやはり、日差しに輝く緑の森と青い空の間に、侯爵邸の魔石の翼と白い尖塔が聳えていた。



 白い石の階段を更に下るにつれ、用心棒達の声も森のざわめきも頭の上で小さくなって消えていった。ビュエルバの地上を吹く強い風も止んで、しんと静まりかえった空気に5人の足音だけが響く。
 地上からはたっぷり3階分は下ったろうか。階段が尽きたところで、ヴァンは目の前に聳える幾層にも重なる白いアーチを見上げた。
 二人がかりでも腕を回しきれないほどの太い円柱が建ち並び、その遙か最上部は崖の上から手を伸ばす緑の樹々に抱かれるようにして森と混じっている。長の風雨にさらされて苔むしたその巨大な石造りの建造物は、あたりを包む静けさの中では、さながら礼拝する者も無い古い神殿のようにも見える。
「すっげえなぁ・・・」
 見上げるヴァンの口から嘆息が漏れる。
     .ルース魔石鉱だ。イヴァリース有数の鉱脈さ。」
 静まりかえったその場所に、バルフレアの声が響いた。
 ヴァンは坑道の入り口へと目を遣った。この空中都市の豊かさを支える巨大な魔石鉱。だが今は人影どころか、入り口を照らす灯りもなく、ただ静かに暗く胡乱な口を開けているだけだ。
 じっと坑口の闇を見つめていたバッシュが、バルフレアに言った。
「・・・ここの警備は帝国軍が?」
 だがそれに答えたのは、彼ではなかった。
「ビュエルバ政府は特例を除いて帝国軍の立ち入りを認めていません。」
 ラモンのその言葉は、まるで自分の所有物について語るかのように明晰だった。    明晰に過ぎた。
 12の子供とも思えぬその物言いに顔を見合わせる大人達を知ってか知らずか、
「では、行きましょうか。」
 ラモンは4人の従者を率いる主のように、悠然として魔石鉱の闇へと下る階段を降りていった。





 湿った闇の中で、バンガ達の荒々しい足音が響く。
「おら!とっとと歩け!」「きゃっ!」
 両手を縛られたパンネロは砂利の上でよろよろと足がもつれた。バッガモナンはそれにも構わずどんどんパンネロを引き立てる。ブワジの太い腕がパンネロの襟首を掴むと、まるで捕まえた子猫を突き出すように、後から追い立てた。
「だから俺が言ったろうが!奴は必ず来るってよ!」
 バッガモナンは大きな拳を振り回して、勝ち誇ったように怒鳴った。
 薄暗いトンネルらしき中に、バッガモナンの銅鑼声が割れんばかりに響く。
 見張りに出ていた手下達が帰ってくると、突然バッガモナン達はそれまでの空き部屋を出て移動を始めた。
「奴の女に目を付けるとは、さすが兄貴っすねぇ。」「だから違うの!」
「うるせぇ!黙って歩け!!」
 バッガモナンの剣幕に、パンネロだけでなく、三人の手下達も黙りこくって暗路を進んだ。
 空き部屋の小さな窓からは外の光が射していたが、部屋の外は真っ暗と言ってもいいトンネルだ。岩肌もむき出しで足元は酷くでこぼこしていて、トンネルというよりまるで細い洞窟のようだ。時々コウモリの黒い影が音もなく目の前を横切り、ギジューが銃で撃ち落とした。
「・・・それにしても、何だか妙なことばかりっすねえ?」
 しんがりを歩きながら、ギジューが貧相な灰色の首をひねった。
「途中でジャッジが何人も割り込んでくるし、奴とつるんでる連中はいちいち話と違う・・・今度は金持ちそうな子供が一緒だなんて、どっちのジャッジからも聞いてないっすよ。どうするんです?」
「知るか!奴がいい金蔓でもみつけたンだろうよ!」
 バッガモナンは手下の言うことなど耳も貸さぬ様子で、暗い坑道をずんずん大股で歩いていく。パンネロは引き倒されないように付いていくのに必死だった。そんな中突然、
「うわっ?!」
 ブワジが何かに蹴つまずいて派手に転んだ。
「畜生~!落石か?」
 仰向けに転んだまま、ブワジが忌々しげにその石を片手で掴み上げると、その石ころからは太くて短い足が4本突き出していて、その足がビクッとしたように甲羅の中に引っ込んだ。
「・・・ちっ!亀じゃねえか!」
 それはバンガの頭ほどもある亀だった。
「畜生・・・なんで坑道の真ん中に亀がいるンだよ!?」
 ブワジは忌々しそうに蹴躓いた亀を暗闇の向うに放り投げた。
「モタモタしてんンじゃねえ!奴が来る前に段取り済ませなきゃいけねぇンだぞ!」
 怒鳴りつけるバッガモナンを恨めしそうに見ながら、ブワジがのそのそと起き上がった。
「そもそも、どうして兄貴とバルフレアの話にジャッジが一枚噛みたがるンだ?」
「まったく妙な話だよねぇ!」
 リノが抜け目無さそうな目を光らせて頷いた。
「それもいつもの公安9局じゃないときてる!9局より先に他のジャッジが絡んでくるなんて初めてだよ?」
「だな。あのジャッジの奴、どっから話を嗅ぎつけたのか、飛空艇まで用意してビュエルバまで連れてこいときたもんだ。あげくにギルまで積んで何を言い出すかと思えば、バルフレアじゃなくて・・・」
「いちいちうるせぇンだよ!てめえらはよ!!」
 お喋りな手下共に、バッガモナンが辺りの空気がビリビリ震えるほどの怒鳴り声をあげた。入れ墨の入った太い緑の腕を振り回して、
「ジャッジが誰に興味があろうと知ったことか!俺はバルフレアの奴さえフン捕まえりゃ、それでいいンだよ!・・・見てろよ、あの野郎・・・」
 闇の中で、バッガモナンの拳がギリギリと鳴った。大きく裂けた口に、ジャラジャラと鳴るピアスと共に黄色い牙がギラリと光った。

 パンネロはバンガ達に遅れないようにひたすらに足を動かした。
(ヴァン!    
 パンネロはただ名前を呼ぶことしかできなかった。手の中のハンカチを握りしめることしか出来なかった。
 来て欲しいのか、逃げて欲しいのか、考えることすら出来ない。彼らはただギルが欲しい訳ではないのだ。
 ぞっとするようなバンガの大きな背中を見ながら、パンネロはハァハァと喘ぐ自分の息遣いに集中しようとした。意識して息をしないと、呼吸は嗚咽に変ってしまいそうだった。嗚咽になった途端、その場で泣き崩れてしまいそうだった。

 岩肌が剥き出しだった細いトンネルを急ぎ足で歩いていくと、トンネルはいつか石を丁寧に敷き詰めた暗い通路のようなものに変った。
 ひんやりとした空気の中に反響する足音が硬く高く響くようになった。随分天井も高くなったらしい。
 暗い階段を昇っていくと、どこからか微かに緑の葉の香りがしたような気がした。

 一体、彼らはどこへ行くのだろう     .







 急な階段を下りていくと、そこは太い柱の林立するホールのような開けた空間になっていた。壁に沿って点々と小さな灯りが点っているが、地下墓地のように暗く静まりかえって、まるで何年も放置されていたかのようだ。森の麓を堀抜いているせいか、あたりの空気には黴っぽい湿り気が感じられ、大聖堂のように高い天井を見上げると、黒ずんだシミのように黴か地衣類がまだらに広がっていた。
 ヴァンは遺跡のように黒ずんだ柱を見上げた。
 綺麗に切り出された石が一分の隙もなく組み上げられ、ダルマスカ織りの模様にも似た手の込んだ装飾が施された柱や壁を見ると、この魔石鉱が遙かガルテア時代の昔から大切に掘り続けられてきた鉱山であることが、ヴァンの目にも分かった。
 ミストの結晶とも言われ、飛空艇を浮かべる浮遊石として、魔法の触媒として、イヴァリースの民に様々な力を与えてくれる魔石。その不思議な力を秘めた魔石を算出する魔石鉱は、遙か昔、本当に神殿のようなものだったのかもしれない。
(今はそんな事どうだっていいじゃないか     
 ともすれば初めて触れる世界に心奪われる自分に僅かに苛立ちながら、ヴァンは目の前の深い闇に目を懲らした。
 こうしている間にも、パンネロはこの闇の向うでたった一人で俺達を待ってる     
 静まりかえった通路の遙か先の方で、カラカラと乾いた音が聞こえた。
「あっちだ!」
 ヴァンは正面の通路を指さすと、ラモンを追い越して駆け出した。







 暗い吹き抜けの下、僅かな灯りにボンヤリと照らされた坑道を6人の人影が動いている。
 二人のジャッジを従えて先頭を行く男の甲冑が淡い灯りに金色に輝いた。金地の甲冑に朱色の設えという鮮やかな軍装は、黒一色を常とするジャッジにも帝国兵にも見たことはなかったが、薄闇にも映えるその豪奢さと、紅の天秤の紋章が染め抜かれた黒い大マントからすると、彼もやはりジャッジマスターの一人なのだろう。
 3人のジャッジの軍靴の後を、短い杖を手にした年配の男性がゆっくりと歩いている。短く刈った白髪にゆったりとした古雅な服に身を包んだその人は、相当の身分に見えるが軍人ではないようだ。穏やかな物腰で歩く姿をよく見ると、白く長い上衣の下で僅かに片足を引き摺っているように見える。その男性の後を、ひょろりと首の長いレベ族の従者が二人、影のように付き従っていた。
「念のために伺うが     
 階段を上がりかけたところで、金の甲冑のジャッジが足を止めた。甲冑の下の声はカサカサした硬い声だった。
「質の高い魔石は本国ではなく     .
 白髪の男性は立ち止まった。
 そして、闇の中で微笑んでいるのであろう、含みのある低い声が返った。
「・・・すべて秘密裏にヴェイン様のもとへ。」
「ハハハ・・・」
 金朱の鎧のジャッジは、兜の下で乾いた笑い声をあげて振り向いた。
「貴殿とは馬が合うようですな。」
「それは結構ですが    
 白髪の男性の杖が、コツンと石の床を打った。
    手綱を付けられるつもりはございませんな。」
 甲冑の下の笑い声が消えた。
「ならば鞭をお望みか?」
 乾ききった声がピシリと相手の頬を打つように響いた。
「・・・つまらぬ意地は貴殿のみならず、ビュエルバをも滅ぼすことになる。」
 金朱の鎧のジャッジマスターはそう言い捨てると、黒い大マントを翻すと、再び階段の向うへと歩を進めていった。
 その背のマントに染め抜かれた深紅の天秤の紋章を見つめながら、白髪の男性も従者達も、ただ無言で帝国の番人の後に続いた。



「ビュエルバの侯爵、ハルム・オンドール4世    
 回廊の手摺りの陰から眼下に交差する通路を見下ろして、ラモンが囁いた。
「ダルマスカが降伏した時、中立の立場から戦後の調定をまとめた方です。」
 ラモンの傍らから覗くヴァンの視線の先で、白髪に杖を手にした男性がジャッジ達の後についてゆっくりと坑道の闇の向うに消えていく。
「帝国寄り、ってみられてますね。」
 そう言うラモンの背中をじっと見下ろしながら、バルフレアが揶揄するように言った。
「反乱軍に協力してるってウワサもあるがな。」
「あくまで噂です。」
 抗議するように振り向いたラモンの顔を、なおもバルフレアは絡むような笑みを浮かべて覗き込んだ。
「よく勉強していらっしゃる。    どこのお坊ちゃんかな。」
「どうだっていいだろ!」
 ヴァンは思わず声を上げて立ち上がった。
「パンネロが待ってるんだぞ。」
 ヴァンはそう言って一人駆け出した。ジャッジのことも、侯爵のことも、今は考えたくもなかった。
「パンネロさんって?」
 子供らしく戸惑ったラモンの声が、ヴァンの背中を追った。その素直さがかえって癪に障って、ヴァンは振り返るとラモンを睨み付けた。
「友達。さらわて、ここに捕まってる。」
「えっ・・・」
 思わず声を飲んだラモンの顔を見ようともせず、ヴァンは再び坑道の奥へ続く階段を駆け下りていった。

 

 


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